要点
- KasperskyのSecurelistが2026年8月26日、2026年第2四半期(Q2)の脆弱性とエクスプロイト、コマンド&コントロール(C2)フレームワークに関する統計レポートを公開した。
- レポートは、月次の登録CVE数が2022年以降で過去最高水準へ膨らみ、CVSS 9.0超の重大な脆弱性もQ2に急増したと分析した。主因として、AIを用いたアプリケーション開発と脆弱性探索の普及を挙げた。
- 同時に、AIエージェントやAIフレームワーク自身の脆弱性が初めて統計に含まれた。人気プロジェクトのOpenClawはQ2だけで200件超のCVEが登録され、脆弱性の多いプロジェクトで12位に入った。Linuxではページキャッシュ機構に起因する「Dirty Frag」一族が相次いで見つかり、WindowsではCVE登録前にPoCが公開される事案が目立った。
登録脆弱性は過去最高水準 — AIが発見と生成の両面で影響
Kasperskyは、CVEデータベースに加え、ロシアのBDUデータベースとGitHub Advisory(GHSA)を統合した独自の知識ベースに基づき、2022年から2026年までの月次登録数を集計した。その結果、2026年Q2の登録数は全データベースで上昇し、過去にない水準に達したという。
同社は要因を2つ挙げた。第一に、AIを活用した脆弱性研究が、従来は未解析だった大量のコードを解析し、数十年見過ごされてきた新たな攻撃面や脆弱性クラスを掘り起こしたこと。第二に、AIツールやAIが生成したコード自体が新たな脆弱性を生んでいることである。レポートは「AI開発ツールが生成するコードの品質にはばらつきがあり、今後も新たな脆弱性の発見ペースは拡大し続けるだろう」と述べている。
重大な脆弱性(CVSS 9.0超)の月次推移でも、Q2に急峻な増加が見られた。同社は、AIがLinuxカーネルのネットワーク関連コードなどを網羅的に解析したことで、Dirty Fragのような一連の脆弱性群が見つかったことを例に挙げた。
Linux — Dirty Frag一族がページキャッシュを突く
2026年Q2に最も活発に悪用されたLinuxカーネルの脆弱性は、いずれもカーネルのキャッシュ機構(ページキャッシュ)に起因する権限昇格だった。Kasperskyが挙げた主なものは次の通りである。
- CVE-2026-31431(Copy Fail):ページキャッシュを改変して非特権ユーザーがroot権限を得られる。クラウドやコンテナ環境で特に危険とされる。
- CVE-2026-43284 / CVE-2026-43500(Dirty Frag):IPsec ESPやRxRPCなどネットワークサブシステムの欠陥で、ページキャッシュの上書きにより権限昇格が可能。
- CVE-2026-46300(Fragnesia):パケット断片処理とページキャッシュの問題に起因し、同様に非特権からrootへ昇格する。Dirty Frag一族に分類される。
- CVE-2026-31635(DirtyDecrypt):復号処理の不備でページキャッシュを操作し権限昇格する。
- CVE-2026-43494(PinTheft):メモリページのピン留め機構の誤りによる権限昇格。
- CVE-2026-46331(pedit COW):トラフィック制御サブシステム(tc-pedit)のコピーオンライト(Copy-On-Write)の欠陥を突く。
いずれもローカルでの権限昇格であり、攻撃者が初期侵入後にrootを奪う段階で使われる。Kasperskyは、Q2に新たな脆弱性が次々に公開された一方で、CVE-2022-0847(Dirty Pipe)やCVE-2019-13272、CVE-2021-22555(Netfilterのヒープ境界外書き込み)、CVE-2023-32233(NetfilterのUse-After-Free)といった旧来の脆弱性も依然として悪用が検出されていると指摘した。Linuxでエクスプロイトに遭遇した利用者数はQ1比でやや減少したものの、高止まりが続いているという。
同社は、パッチを迅速に適用し、適用できない場合は脆弱なカーネルモジュールを無効化することを推奨している。
Windows — CVE登録前にPoCが先行する異例の事態
Windowsでは、CVEが付与される前に技術詳細と完全なPoC(概念実証コード)が公開されるという異例の動きがQ2に表面化した。研究者のNightmare Eclipse(別名Chaotic Eclipse)氏が、複数のWindowsサブシステムにわたる「名前付き」脆弱性を公表し、いずれも公開時点でCVEが未採番だった。
同氏が公開した主なものは次の通りである。
- BlueHammer:Windows Defenderの署名データベース更新時のTOCTOU(Time-of-Check to Time-of-Use、検査時と使用時の競合)により、一時ファイルの書き込み先をすり替えられるローカル権限昇格。完全なPoCが公開された。
- RedSun:クラウド判定された疑わしいファイルを特権付きで上書き・復元できるDefenderの論理的脆弱性。
- YellowKey:Windows回復環境(WinRE)を経由してBitLockerのディスク暗号化を迂回しシステムデータへアクセスできる問題。
- GreenPlasma:CTF(Collaborative Translation Framework)のCTFMONサービス経由でシステムオブジェクトを注入できる問題。限定機能のPoCが付属した。
- RougePlanet:BlueHammerと同様にDefenderのリアルタイムスキャンエンジンのTOCTOUを突き、システムファイルwermgr.exeを悪性ファイルで上書きする。
- UnDefend:Defenderサービスにサービス拒否と更新妨害を引き起こす。
Kasperskyは「現時点では孤立した事例だが、今後こうした早期公開が常態化する可能性がある。パッチが用意される前に攻撃者に利する時間が生じる」と懸念を示した。
一方、検出頻度が高い定番の脆弱性も依然として猛威を振るっている。**CVE-2018-0802やCVE-2017-11882(いずれもEquation EditorのRCE)、CVE-2017-0199(Office/WordPad)、CVE-2023-38831(WinRARのアーカイブ処理不備)、CVE-2025-6218およびCVE-2025-8088(WinRARの相対パス指定やNTFSストリームを悪用する展開時の問題)**が、初期侵入や権限昇格の手段として頻繁に検出されている。Windowsでエクスプロイトに遭遇した利用者数はQ2に18か月ぶりの低水準へやや減少したという。
AIエージェントと偽研究の拡散 — 新たなノイズ
今回のレポートでKasperskyが初めて集計したのが、オープンソースのAIエージェントやAIフレームワークの脆弱性である。AIエージェントの普及に伴い、その実行基盤やプラグイン、連携機能に起因する脆弱性が顕在化しつつある。前述の通りOpenClawはQ2だけで200件超のCVEが登録され、脆弱性が多い上位プロジェクトに食い込んだ。
また、Q2にはAIが生成した偽の脆弱性研究が拡散したことも特筆された。ExchangeやSharePointなどで、一見精緻なレポートやPoCコードを伴いながら、実際には存在しない欠陥を記述した偽情報が複数確認された。中には無関係なマルウェアが同梱された例もあったという。Kasperskyは「真正な脆弱性の発見を遅らせることを狙った妨害であり、研究者の検証コストを押し上げる」と分析している。
既知の悪用とC2 — APTは公開直後の脆弱性を即時悪用
APT(持続的標的型攻撃)で悪用された脆弱性の上位10件でも、公開直後の新たな脆弱性を即時に悪用する傾向がQ2に強まったとKasperskyは指摘している。具体的なランキングはレポート内のグラフで示されている。
C2フレームワークでは、従来のMetasploitやCobalt Strikeに加え、AdaptixC2、Havoc、Sliverなどの利用が目立ったという。
推奨事項 — Kasperskyが示す対応
レポートの結論部でKasperskyは、次の対応を呼びかけている。
- 迅速なパッチ適用を優先すること。特にLinuxのDirty Frag一族やWindowsの新たな論理的脆弱性は、特権昇格の連鎖に使われやすい。
- パッチが困難な場合は、脆弱なカーネルモジュールや機能を無効化することで露出を減らすこと。
- AI生成コードやAIエージェントを導入する際は、依存ライブラリやプラグインの脆弱性管理を強化すること。AIツール自体が脆弱性を抱える事例が増えている。
- 公開されたPoCや研究報告は、一次情報とCVE採番状況を必ず確認すること。AI生成の偽研究が混在しているため、検証なくPoCを実行しないこと。
同社は、脆弱性発見の自動化が進むことで今後も登録数が増え続けると予測し、「発見と修正の競争が激化する中で、資産管理と優先順位付けが一層重要になる」と述べている。
出典
- Kaspersky Securelist, Alexander Kolesnikov「Analyzing the vulnerability landscape in Q2 2026」2026年8月26日 https://securelist.com/vulnerabilities-and-exploits-in-q2-2026/121091/
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