脅威動向 / THREATS / EDR KILLER / CLICKFIX
eSentireがClickFix経由のEDRキラー「Cruciferra」を分析 — ErrTrafficがPolygonでC2を隠蔽、145プロセスを停止
eSentireの脅威対応ユニットは2026年7月下旬、WordPress改ざんから始まるClickFix攻撃でEDRを無力化するローダー「Cruciferra」を確認した。配信基盤「ErrTraffic」はPolygonブロックチェーンにC2を隠し、Cruciferraは脆弱な正規ドライバを悪用して145のAV/EDR関連プロセスをカーネルから停止させる。両者はMaaSとして販売されている。
**eSentireのThreat Response Unit(TRU)は2026年7月下旬、侵害されたWordPressサイトに仕込まれたClickFix誘導から、EDR(Endpoint Detection and Response: 端末検知・対応)を無力化するローダー「Cruciferra」を配信する攻撃を複数確認した。配信基盤となる「ErrTraffic」とローダー「Cruciferra」は、いずれも地下フォーラムで販売されるMaaS(Malware-as-a-Service: サービスとしてのマルウェア)**だ。eSentireは2026年8月に詳細な分析を公開した。
攻撃の起点 — WordPress改ざんからClickFixへ
攻撃は侵害されたWordPressサイトに埋め込まれた難読化されたErrTraffic製JavaScriptから始まる。このJavaScriptはBase64と1バイトXORで難読化され、実行時にPolygon(Ethereumのレイヤー2)上のスマートコントラクトに対してeth_callのgetDomain呼び出しでC2(Command and Control: 指令統制サーバ)のドメインを解決する。解決後はdocument.headまたはdocument.bodyに新たなscript要素を追加し、<C2>/api.php?s=<AUTH_KEY>&_v=<分数>の形式でC2に問い合わせてClickFix誘導のJavaScriptを取得する。
ClickFix誘導はGoogle reCAPTCHA、Cloudflare Turnstile、あるいはブルースクリーン(BSOD)のエラー画面に偽装する。画面は利用者に悪意あるPowerShellコマンドをクリップボードへコピーさせ、「Windowsキー+X → I」でPowerShellを開いて貼り付け、実行するよう指示する。eSentireによると、ErrTrafficはロシア語圏の地下フォーラムでLenAIというアクターが販売し、月額380ドルで提供される。Webパネルで誘導の見た目やドメイン表示、ライト/ダークモード、地理・リファラーによるフィルタリング、キャンペーン統計、WordPressプラグイン生成までを管理できる。
eSentireが確認したPolygonコントラクトは0xB6BC9E1D0B2FB96AB7C47E04CB0BE477410BC1F2と0x83833C5D676CA06E941A32310AE67D0890F657EEで、14のRPCエンドポイント(polygon.drpc.orgやpolygon.lava.buildなど)で冗長化されていた。トランザクション履歴では攻撃者が定期的にC2ドメインをローテーションしており、多数のWordPressサイトに埋め込んだinjectを書き換えずにインフラを切り替えられる仕組みだった。
Cruciferra — 脆弱ドライバで145プロセスを停止するローダー
Cruciferraは地下フォーラムのユーザーCruciferraが2025年11月から販売するMaaSで、当初は**「crypter(暗号化ローダー)」としてEDR/AVを停止させる機能**を売りにしていた。EDRキラー機能付きパッケージは月額1200ドルで取引されている。eSentireによると、CruciferraはProofpointが過去に報告したものと同じく、BYOVD(Bring Your Own Vulnerable Driver: 自前で持ち込む脆弱ドライバ)を悪用する。
今回確認された検体(SHA-256: 0ae0a7f118b80e4655b8b86bb421c151a8f17930e76e714b2fa199409f3af9ce)では、正規のMicrosoft署名付きバイナリを悪用してCruciferra DLL(mscoree.dll)をサイドロードし、プロセスホロウイング(T1055.012)で正規バイナリServiceModelReg.exeのアドレス空間にRemusインフォスティーラーを注入する。設定でUACバイパスとEDRキラーが有効な場合、BYOVDドライバ「DCRCVDrv.sys」をロードする。
このドライバは韓国のIT企業MocoMsysが署名したもので、ユーザーモードのアプリケーションがカーネルから直接プロセスを終了できるIOCTLを公開している。CruciferraはこのIOCTLを悪用して145のAV/EDR関連プロセスを停止させる。eSentireはこのドライバがMicrosoftの脆弱ドライバブロックリストに未登録だった点を指摘している。
攻撃チェーン全体
- 利用者が侵害されたWordPressサイトを訪問する。サイトにはErrTrafficの難読化されたinjectが埋め込まれている。
- injectがPolygonコントラクトでC2を解決し、C2からClickFix誘導のJavaScriptを取得する。
- ClickFix誘導が表示され、利用者にPowerShellへの貼り付けと実行を促す。
- PowerShell経由で複数のステージが実行され、正規バイナリがCruciferra DLLをサイドロードする。
- CruciferraがRemusをServiceModelReg.exeに注入する。EDRキラーが有効な場合はDCRCVDrv.sysをロードして145プロセスを停止する。
eSentireが推奨する対策
eSentireのTRUは以下の対策を推奨している。
- 脆弱ドライバをEDR/AVコンソールでブロックする。対象はSHA-256
87e8d39db624f37d3e77aedf487a2dfd197f71a4730ea74f4e7a4341deaec2ff(DCRCVDrv.sys)だ。 - 実践的なシナリオを用いたフィッシング・セキュリティ意識向上訓練(PSAT)を実施する。ClickFixは利用者自身に操作させるソーシャルエンジニアリングのため、訓練が有効になる。
- 多様なシグナルを扱う24時間体制のMDR(Managed Detection and Response)や、最低限としてNGAV/EDRを導入して検知と封じ込めを確保する。eSentireは「多信号の可視化と24時間の脅威ハンティング」が横展開の防止に必要だとしている。
日本の組織への示唆
ErrTrafficとCruciferraはいずれもMaaSとして販売され、WordPressの改ざんとClickFixという手口の低さを武器にしている。国内でもWordPressで運用されるサイトは多く、CloudflareやGoogleを装う誘導は日本語環境でも違和感が少ない。また、BYOVDによるEDR無力化は、EDRを導入済みでもカーネルドライバの制御が不十分だと効果を失うことを示す。eSentireが示した脆弱ドライバのブロックは、EDRコンソールで即時に設定できる対策だ。各組織は自組織で利用するEDR製品でブロックリストが有効か、ClickFixのようなクリップボード経由の実行を検知・教育できているかを確認することが望ましい。
出典
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