脅威動向 / THREATS / OT SECURITY
英NCSCがOTへのサイバー攻撃増加に警鐘 — インターネットに露出した制御システムが物理的な混乱を招く恐れ
英国家サイバーセキュリティセンター(NCSC)は2026年8月下旬、運用技術(OT)システムを狙うサイバー活動が世界的に増加し、一部で現実の物理的な混乱が生じていると公表した。インターネットに露出したOTやエッジデバイスが標的にされ、あらゆる組織が影響を受ける可能性があるとして、資産の可視化や境界の強化、監視の徹底を呼びかけている。
英国家サイバーセキュリティセンター(NCSC)は2026年8月下旬、運用技術(OT)システムを標的とするサイバー活動が世界的に増加しているとして注意喚起を公表した。NCSCは複数のセクターでOTが狙われ、一部では現実世界での限定的な物理的混乱が生じていることを確認したと説明している。この注意喚起は全ての組織を対象としたもので、NCSCはインターネットに露出したOTを持つ全ての組織が影響を受ける可能性があると警告している。
何が起きたか — OTを狙う活動が世界的に増加
NCSCによると、OTシステムへの標的型活動は世界的に複数セクターで観測され、英国の組織も含まれている。攻撃は国家や非国家を含む幅広い主体によって行われている。NCSCは、破壊的なサイバー活動が重要インフラ(CNI)だけでなく非CNIセクターにも及んでいると説明している。
NCSCは、地政学的な不安定の高まりと、技術によって底上げされたサイバー能力を背景に、紛争の有無にかかわらず国家が攻撃的サイバー能力を用いる脅威は「ほぼ確実に増加している(almost certainly increased)」と評価している。
NCSCは今回の注意喚起に先立ち、影響を受けたセクターに対して直接働きかけを行ってきたとしており、今回は国家全体のレジリエンスを支えるため、より広く助言を共有したとしている。
インターネットに露出したOTとエッジデバイスが標的
NCSCは、インターネットに直接露出したOTが攻撃の標的になっていると強調している。組織は「OTはインターネットからアクセスできないはずだ」と思い込まず、必ず検証する必要があると指摘している。意図しない露出は、設定ミスやレガシーな接続、管理されていない資産を通じて生じる可能性がある。
NCSCは、OTだけでなく、インターネットに露出したシステムやエッジデバイス全体を狙う破壊的活動のパターンも継続しているとしている。同センターは2026年7月に国際パートナーと共同で、不適切に設定されたルータを狙う活動についても注意喚起を出していた。
NCSCが推奨する対策 — 以下は全てNCSCの公表に基づく
NCSCは、観測された破壊的活動を受けて、組織が直ちに取るべき対策として次の項目を挙げている。以下の対策は全てNCSCの公式発表に基づくものである。
- OTアーキテクチャ全体を正確に把握する。 資産、通信経路、外部接続を棚卸しし、インターネットに露出したシステムや管理されていない資産、レガシーな接続を特定する。プログラマブルロジックコントローラ(PLC)やヒューマンマシンインターフェース(HMI)といったOT機器は、公共のインターネットに直接露出させない。
- デフォルトの認証情報を変更し、共有パスワードの使用をやめる。 ウェブインタフェースや管理インタフェース、管理プロトコルで一意のアカウントを用い、可能な限り多要素認証(MFA)を有効化する。プロトコルが対応していれば、パスワードの代わりに公開鍵・秘密鍵などのより強力な認証方式に置き換える。
- OT境界を堅牢化する。 外部や信頼できないネットワークからOTへのアクセスを厳格に制御する。産業用ゲートウェイやファイアウォール、ルータ、リモートアクセス機器といった外部接続を担う機器は、ベンダーのサポート範囲内に保ち、既定で定期的に更新し、サポート終了(EOL)を迎える前に交換する。これらの機器の管理は、インターネットに接続されていない分離された管理ネットワークからのみ可能にする。
- 可能な限り安全なバージョンの産業用プロトコルおよび管理プロトコルを採用する。 産業用ではDNP3をDNP3-SAv5へ、CIPをCIP Securityへ、ModbusをModbus Securityへ、OPC DAをOPC UAへ移行する。管理面ではTelnetやSNMP v1/v2の使用を撤廃し、安全な代替がない場合でも使用を隔離されたセグメントに限定する。
- OTネットワーク内外の全ての接続をログに記録し監視する。 特にPLCやHMIといったOT資産に対して、想定外の機器やネットワーク、経路からの通信の試みを検出することに焦点を当てる。OT環境は通常静的で予測可能なため、ベースライン監視によって不正な活動や設定ミス、侵害の可能性を効果的に特定できる。
- PLCをPROGRAMやその他の保守モードのまま放置しない。 コントローラのロジックにパスワードによる書き込み保護などの仕組みを設け、不正な端末からの制御ロジック変更を防ぐ。
- 管理ネットワーク、OT制御システム、業務ITネットワークをセグメント化する。 機能と重要度に基づいてシステムを分離し、運用に必要な通信のみをゾーン間で許可する。これにより侵害時の影響を限定できる。
- OTシステムや設定、コントローラロジック、重要なエンジニアリングデータについてテスト済みのバックアップを維持し、復旧手順を定期的に訓練する。 影響を受けたシステムを迅速に隔離し、信頼できるバックアップから復旧できるようにする。バックアップはランサムウェア耐性を持つ設計にする。
日本の組織への示唆
この注意喚起は英国の機関によるものだが、指摘された課題は日本の組織にも直接当てはまる。製造業やエネルギー、交通、水道、医療などOTを運用する組織では、PLCやHMI、産業用ゲートウェイがインターネットへ意図せず露出していないか、リモートアクセス機器がサポート切れになっていないか、デフォルト認証情報や共有パスワードが残っていないかを点検する必要がある。
NCSCが指摘するように、OT環境は変化が少なく定常的であるため、平時の通信をベースライン化して監視することは高い効果を持つ。日本国内の組織においても、OTとITの境界、OTと管理ネットワークの分離、そしてバックアップからの復旧訓練を改めて確認することが求められる。
出典
- 英国家サイバーセキュリティセンター(NCSC)「Disruptive cyber activity highlights risk from internet-exposed systems and edge devices」(2026年8月) https://www.ncsc.gov.uk/news/disruptive-cyber-activity-highlights-risk-from-internet-exposed-systems-and-edge-devices
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