脅威動向 / THREAT / WECHAT WORM
WeChatの着信だけでアカウントを乗っ取るゼロクリックワーム「WeWorm」を実証 — Califが3台の実機で感染連鎖を再現、Tencentはサーバ側で遮断
セキュリティ企業のCalifは2026年9月8日、WeChatのVoIPスタックに存在したメモリ破壊の脆弱性を突くゼロクリックワーム「WeWorm」のデモを公開した。攻撃者は連絡先に登録された相手へWeChat通話を発信するだけで、アカウントを乗っ取って次の連絡先へ連鎖的に拡散できる。Pixel 10aとiPhone 17eの3台で検証し、被害者は応答も操作も不要で乗っ取られることを示した。Tencentは8月21日のアプリ更新と8月28日のサーバ側遮断で悪用を止めたとCalifは説明している。
セキュリティ企業のCalifは2026年9月8日、WeChatの着信だけでアカウントを乗っ取るゼロクリックワーム「WeWorm」のデモを公開した。WeChatは中国で事実上のインフラとなっている「スーパーアプリ」で、Califによれば10億を超えるアカウントが潜在的な影響範囲に入り得る。同社はPixel 10aとiPhone 17eの3台で感染連鎖を再現し、攻撃者が連絡先に登録されていれば、被害者が電話に出なくても数秒でWeChatアカウントを完全に制御できることを示した。
Tencentは8月21日にAndroid 8.0.77とiOS 8.0.76を公開して脆弱性を緩和し、8月28日にサーバ側で当該悪用の遮断を確認したとCalifは説明している。技術的な詳細は今後のカンファレンスで公開予定で、現時点ではCVE識別子や公式アドバイザリは発行されていない。
WeWormとは — 着信だけでアカウントを乗っ取り、次の連絡先へ拡散する
WeWormは、Califが**「WeChat通話を経由してiOSとAndroidの双方で拡散する初のゼロクリックワーム」と位置づける実証コードだ。Califの説明によれば、脆弱性はWeChatのVoIPスタックにおけるメモリ破壊**にあり、攻撃者は次の流れで連鎖を作れる。
- 攻撃者のPixel 10aから、被害者1のiPhone 17eへWeChat通話を発信する。
- 被害者は電話に出る必要がなく、端末に触れる必要もない。呼び出し中の状態で脆弱性が発動し、被害者1のWeChatアカウントが乗っ取られる。
- 乗っ取られた被害者1のiPhoneから、被害者2のPixel 10aへWeChat通話を発信し、同様に乗っ取る。
Califはこの**「攻撃者が被害者へ発信し、被害者が次の攻撃者になる」連鎖を3台で再現した動画と、AndroidとiOSそれぞれの単体RCEデモも公開している。悪用に要する時間は数秒で、成功すれば攻撃者はメッセージの閲覧と送信、通話の発信、被害者になりすました操作をWeChatアカウント上で自由に行える。Califによれば、別途報告済みのAndroidおよびiOSの脆弱性と組み合わせれば、端末自体の完全な制御にもつながり得る**。
被害者が電話に出た場合でも無音のまま乗っ取りは成立する。拒否すれば当該試行は中断されるが、攻撃者は就寝中など別のタイミングで再試行できる。Califは、この持続的な到達可能性がゼロクリック攻撃の危険性を高めると指摘している。
重要な前提として、攻撃者は被害者のWeChatの連絡先(フレンドリスト)に登録されている必要がある。Califは、これを高い障壁とはみなしていない。攻撃者がまず被害者の友人の1人を侵害し、そのアカウントから次の標的へ到達すればよいためだ。WeChatを含む多くのメッセージアプリが、信頼された連絡先により多くの権限を与える設計を採用しており、1件の侵害が信頼を逆手に取る踏み台になると説明している。
AIが2日でRCE、1週間でワーム化 — 開発の経緯
Califは、今回の発見と開発をAI支援の成果として強調している。同社によれば、AIと協働して脆弱性を発見し、最初のリモートコード実行(RCE)エクスプロイトを約2日で作成し、ワーム化にさらに1週間を要した。従来であれば大規模なチームが数か月を要する規模の作業を、AIが大部分を担ったと説明しつつ、標的の選定と安全な検証方法の判断は人間が担ったとしている。
同社は一度の実験室からの漏えいや、未完成のコードの持ち出しでも、準備が整う前にWeWormのようなワームが野外へ出るリスクを指摘し、WannaCryが流出したツールを起点に病院を含む被害を広げた事例を例に挙げた。AIの開発を抑えるのではなく、AIで脆弱性を迅速に発見し修正する側に立つべきだと主張している。
開示タイムライン — 7月報告、8月21日にアプリ更新、8月28日にサーバ側で遮断
Califが公開したタイムラインによれば、Tencentとのやり取りは次の通りだ。
- 2026年7月23日: Califのエンジニアリングチームが脆弱性を認識
- 2026年7月24日: Tencentへ報告
- 2026年7月30日: 最初のAndroid向けRCEエクスプロイトを完成
- 2026年8月2日: iOS向けRCEエクスプロイトを完成
- 2026年8月11日: AndroidとiOSをまたぐワームデモを完成
- 2026年8月21日: TencentがAndroid 8.0.77とiOS 8.0.76を公開し脆弱性を緩和
- 2026年8月26日: Tencentが調査中である旨をCalifへ通知
- 2026年8月28日: Califがサーバ側で悪用が遮断されたことを確認
- 2026年9月3日: 技術分析と動作するエクスプロイトをTencentへ共有
- 2026年9月4日: Tencentがリモートでのコマンド実行が可能であることを確認
- 2026年9月8日: Califが本記事を公開
Califによれば、7月25日から28日にかけて同社のWeChatアカウントが一時的に停止されたが、その後解除された。Tencent側のリリースノートやApp Storeの説明では、今回の更新はバグ修正とだけ記載され、セキュリティ上の詳細は示されていない。Tencentのセキュリティ対応サイトの最新告知は2022年4月のままで、今回の脆弱性に関するCVEやアドバイザリは9月8日時点で確認されていない。Califは、サーバ側の遮断により利用者が更新しなくても当該悪用は止まるとしつつも、最新版の利用がより安全だとしている。
影響と今後 — 単一バグを超えた攻撃面の広がり
Califは、今回のWeChatの脆弱性を**「多くのメッセージアプリに存在する、従来とは異なる攻撃面の一例」と位置づけている。VoIPスタックに限らず、プラットフォーム側の仕様に依存する攻撃面も含まれるため、アプリ開発者とプラットフォーム提供者を巻き込んだ業界横断の攻撃面削減が必要だと述べ、今後のアプリ横断の調査と、対策が進んだ段階での技術詳細の公開**を予定している。
日本でも、WeChatは訪日・在留する中国語圏の利用者や、中国と取引する企業で日常的に使われている。今回の脆弱性自体はサーバ側で遮断されたが、Califが指摘する通り、連絡先という信頼を前提にした権限設計は他のアプリにも共通する。不審な着信や共有会話、提供元が不透明なカスタム機能への誘導に注意し、アプリとOSを常に最新に保つことが、ゼロクリック型の攻撃に備える基本になる。
出典
- Calif Research「WeWorm — The first zero-click worm to spread through WeChat calls across iOS and Android」 (2026年9月8日) — https://calif.io/research/weworm
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