AIセキュリティ / AI SECURITY / RMM ABUSE
AIが構築を支援したツールキット「Gryxa」が防御側の修復を監視 — ReliaQuestが324ホストでの悪用を確認
ReliaQuestは2026年8月28日、AIコーディングエージェントの支援を受けて構築されたとみられるツールキット「Gryxa」を公表した。金銭動機の攻撃者が正規RMMを悪用して持続的なアクセスを確保し、防御側がRMMを除去した際の挙動を収集して攻撃者へ送信する。
ReliaQuestは2026年8月28日、新たなツールキット「Gryxa(グリクサ)」について公表した。同社の脅威研究チームが金銭動機の攻撃者による初期アクセスの運用で確認したもので、攻撃者は正規のリモート監視・管理(RMM)ソフトウェアを悪用して持続的なアクセスを確保し、Chromium系ブラウザに保存された認証情報を窃取していた。ReliaQuestは、攻撃者の公開リポジトリの大半のコミットに商用AIコーディングエージェントが共著者として記録されていたことから、Gryxaの相当部分がAIの支援で構築された可能性が高いと評価している。
Gryxaが注目される理由は、単にAIで生成されたマルウェアであることにとどまらない。ReliaQuestによれば、Gryxaはこれまで同社が観測した事例の中で、ツールキットから運用コンソール、署名付きの更新パイプラインまで一連の運用全体がAIの支援で構築された初めての事例だという。コンソール上では324のホストが一覧化され、執筆時点で69台がオンラインと表示されていた。日本の企業でもRMMやChromium系ブラウザは広く利用されており、初期侵入後に長期的に潜伏されるリスクとして無視できない。
AIが構築を支援した痕跡
ReliaQuestの評価は、攻撃者自身が公開していたコードリポジトリの直接分析に基づく。同社は4つの根拠を挙げている。第一に、商用AIコーディングエージェントが共著者として大半のコミットに記録されていたことだ。第二に、AIエージェントへ毎回自動的に渡されるエンジニアリング指針のルールファイルや、セッション引継ぎ用の「SESSION_HANDOFF.md」、35件の失敗事例を分析した「CASES.md」がリポジトリに含まれ、後続のコミットでそれらの課題が修正されていたことだ。第三に、ChromeのApp-Bound Encryption(保存されたパスワードを保護する仕組み)への言及から、その回避を意図したコードのコミットまで約1時間しか経過していなかったことだ。第四に、攻撃者のリレー基盤が配信するランディングページの構造や文面がAI生成物の特徴を示していたことだ。
同社は、2つのスクリプト「own_lib.ps1」と「own_mon.cmd」のヘッダーに「Authorized internal deployment - lab/competition scope only.(承認された内部展開 - ラボ/競技スコープ限定)」という同一のコメントが残されていた点にも触れている。両スクリプトはいずれも永続化や監視を担う実装であり、ラボ用途の記述は実態と一致しない。ReliaQuestは、この文面がAIモデルの安全対策を回避するために「正当な実験である」と見せかける目的で付与された可能性があると指摘する。ただし、実際のプロンプトや対話の記録は入手できていないため、AIが何を拒否し何を生成したかまでは確定できないと同社は明記している。
正規RMMを隠れ蓑にした持続化と認証情報窃取
Gryxaは、限定的な隠蔽と多層的な復旧機構を組み合わせている。攻撃者は正規RMMを悪用して外部からの操作経路を確保し、再起動後も単独で動作する複数の永続化手段を用意する。サービス修復やWMI(Windows Management Instrumentation)のウォッチドッグ、タスクスケジューラなどを多重化することで、一部の経路が除去されてもアクセスが途切れにくい構造を持つ。
そのうえで、GryxaはChromium系ブラウザに保存された認証情報の窃取を試みる。ReliaQuestは、リポジトリ内でChromeのApp-Bound Encryptionに関する言及と回避コードが短時間で連続して記録されていたことを確認しており、ブラウザ保護機能の迂回が開発目標の一つだったとみている。窃取された認証情報は暗号資産ウォレットの窃取にもつながり得る。
修復の動きを攻撃者へ送信する監視機能
Gryxaで最も特徴的なのは、防御側の修復行動を観測して攻撃者へ報告する機能だ。ReliaQuestによれば、防御側が目に見えるRMMインプラントを除去すると、Gryxaの別コンポーネントがWindowsログやホスト上の痕跡を収集し、どのような手順で除去が行われたかを攻撃者へアップロードする。RMMを悪用する他の攻撃者では文書化されていない挙動だという。
さらに、攻撃者のリレー基盤が到達不能になった場合、Gryxaは約10分以内にエンドポイント保護エージェントの無効化やアンインストールを試みる。部分的な封じ込めが逆に対抗措置を誘発する恐れがあるため、対処の順序が重要になる。
ReliaQuestが推奨する封じ込めの順序
ReliaQuestは、部分的な除去が攻撃者に対抗策を取らせる引き金になるとして、封じ込めの順序を明確に示している。同社はまず攻撃者のインフラ(リレー先や関連ドメイン)を遮断し、その後にすべての永続化機構を一括で除去することを推奨している。順序を誤ってRMMのみを先に除去すると、修復ログが攻撃者へ送信され、続いてエンドポイント保護への攻撃が始まる可能性がある。
同社はまた、単一のツールキットを追跡するのではなく、RMMの不正利用や認証情報窃取、保護機能の無効化といった振る舞いに基づく検知を優先すべきだと指摘する。今回のように1人の運用者でも、AIの支援によって数百ホスト規模のインフラを構築・運用できる時代に入ったためだという。
日本企業が留意すべき点
RMMツールとChromium系ブラウザは日本企業でも一般的に利用されている。Gryxaのように正規RMMを悪用する手口は、外部からの不正アクセスと正当なリモート運用の区別を難しくする。ReliaQuestの報告を踏まえ、RMMの利用状況の棚卸し、想定外のRMMプロセスや永続化タスクの監視、ブラウザに保存された認証情報の運用見直しを検討することが望ましい。対策を検討する際は、遮断と除去の順序を含め、一次情報であるReliaQuestの報告内容を参照されたい。
出典
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