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AIセキュリティ / AI SECURITY / IDENTITY

盗まれたAIトークンで“ログインせずにログイン” — Oktaがインフォスティーラー5,871台のログから555件のAI認証トークンを確認

Oktaは2026年9月8日、Telegramで流通した7GB・5,871台分のインフォスティーラーログを分析し、44,791件のJWTのうち555件がAIサービス関連だったと報告した。GoogleやAnthropic、Cursorなど複数サービスで有効なセッショントークンと平文のAPIキーが含まれ、MFAを迂回してAIアカウントへ不正アクセスされる恐れがある。急騰するAI利用料を狙う窃取ビジネスの実態を一次情報から整理する。

攻撃手法
ソフトウェア

Oktaは2026年9月8日、インフォスティーラーのログに含まれるAIサービスの認証トークンが、窃取後にリプレイ(再利用)されることで多要素認証(MFA)を迂回してAIアカウントへ不正アクセスされる実態について、調査結果を公表した。同社がTelegramチャンネルで2026年8月2日に無料公開された7GB・5,871台分のログを分析したところ、44,791件のJSON Web Token(JWT)のうち555件がAIサービス関連で、多数が未失効のまま流通していた。AIの利用料高騰を背景に、盗んだトークンでAI推論をただ乗りする手口が拡大していると同社は警鐘を鳴らしている。

日本でも生成AIサービスの業務利用が広がる一方、利用者の端末がインフォスティーラーに感染すれば、社内のAIアカウントやAPIキーが直接盗まれる恐れがある。パスワードを強化しても防げないトークン窃取という盲点への対応が求められる。

5,871台のログに残るAI認証トークン

Okta Threat Intelligenceのディレクター Jeremy Kirk氏らがまとめた一次情報によると、調査対象はダークウェブで週次・月次のサブスクリプション販売の客寄せとして無料公開されたログである。各フォルダが1台の感染端末に対応し、ログイン資格情報、セッショントークン、APIキーなどが含まれる。感染は162か国にまたがり、Oktaは独自の正規表現とオープンソースのTruffleHogで認証関連トークンを抽出した。

主要プロバイダー別の集計は次のとおりである(Netscape.txt形式のCookieとしてカウント、2026年8月2日時点で未失効のもの)。

  • Google(Workspaceとコンシューマーを含む): 9,829件中 9,213件が未失効、4,144台で確認
  • Microsoft(Entraとコンシューマーを含む): 2,491件中 1,763件が未失効、1,753台で確認
  • Anthropic: 561件中 164件が未失効、404台で確認
  • Amazon(AWSとリテールを含む): 349件中 254件が未失効、245台で確認
  • Gamma: 160件中 131件が未失効
  • Notion、Character.ai、Cursor、Poe.com、Pika AIでも数十件ずつ未失効トークンが確認された

Google、Microsoft、Amazonはシングルサインオンのゲートウェイで全サービス共通の認証トークンを発行するため、数値はAIサービス固有の利用を直接示すものではないが、AIアカウントへのアクセスに転用可能なトークンが多数含まれる点が問題だとOktaは述べている。

JWTについても、同社は44,791件のユニークなJWTのうち555件がAIサービス関連と推定されると報告した。JWTはサーバ側で権限を検証できるよう署名されたステートレスなトークンで、セッショントークンと同様に有効なJWTを提示するだけでユーザー名やパスワード、MFAを経ずにアカウントへアクセスできる場合がある。分析では、ある生成AIアートサービスのJWTや、トロイの木馬化されたゲーム(Hearts of Iron IV)に同梱されたRemusインフォスティーラーに盗まれたOpenAI・ChatGPTのセッションデータなどの事例が示されている。

さらに、平文のAPIキーも多数含まれていた。Oktaは、3件のAI不正利用事例で被害額が1組織あたり約100万ドル、別の組織で25,000ドル、AIテスト組織で60万ドル相当のクレジットが窃取された事例を紹介し、一部のAIプロバイダーは不正利用を検知して利用者を強制ログアウトさせ、登録された支払いカードを削除して被害拡大を防いでいると述べている。

なぜMFAを迂回できるのか — 流通する解析ツール

Oktaは、セッショントークンやAPIキーは「窃取後にリプレイ可能」な点で、パスワードよりも狙われやすいと説明する。一度盗まれれば、攻撃者は実際にログイン操作をせずにLLMサービスへ“ログインした状態”を再現できる。この性質から、同社はこれらを**「スケルトンキー(合鍵)」**と表現している。

ログの流通実態も深刻である。Oktaが確認したインフォスティーラーログの解析ツールは、大量のログからAIサービス別のセッショントークンだけを抽出・選別できる機能を備える。攻撃者はこのようなツールで目的のAIサービスのアカウントだけを効率的に探し出し、窃取直後にリプレイを試みる。Oktaは、数か月前に収集されたトークンでも有効なものが多く残存しており、高度な手口を必要とせず無料や安価に入手可能だと指摘している。

同社は、パスキーなどのフィッシング耐性のある認証がパスワード窃取を難しくしても、盗まれたセッショントークンやAPIキーの悪用は防げないと強調する。

Oktaが示す推奨対策

Oktaは、本件をATT&CKの手口(T1555.003、T1539、T1528など)にマッピングしたうえで、組織と個人の双方がトークンとキーをパスワード以上に慎重に扱う必要があるとして、次の対策を推奨している。いずれも一次情報である同社ブログが推奨として明示している内容に限る。

  • セッショントークンの再利用を検知するサービスの導入: Okta Identity Threat Protectionのように、盗まれたセッショントークンの再利用試行を検知する仕組みを導入する。対応可能な環境では**Device-Bound Session Credentials(DBSC、Google Chromeが推進するデバイスに紐付けられたセッション資格情報)**の採用を検討する
  • 短寿命トークンの利用とProof-of-Possession: OAuth 2.0のフローでリフレッシュトークンから短寿命のアクセストークンを発行し、Demonstrating Proof-of-Possession(DPoP)により正規のクライアントだけがトークンを利用できるようにする。リフレッシュトークンはキーチェーンやパスワードマネージャーに保管する
  • APIキーの安全な管理: 設定ファイルや環境変数に平文のAPIキーを保存しないシークレットスキャンツールで検出する利用上限(キャップ)とIP allowlisting(許可リスト)で窃取時の悪用範囲を限定する
  • ブラウザとエンドポイントの保護: ブラウザを常に最新に保ち、エンドポイント保護を導入してインフォスティーラー自体の感染を防ぐアプリケーションのallowlistingで不正なファイル実行をブロックする

Oktaは最後に、DBSCの普及が進めばトークンの再利用は大幅に抑えられるが、それまでの間は「合鍵」の再利用を防ぐための地道な対策が不可欠であり、犯罪市場はトークンの窃取と販売の効率を高め続けていると結論付けている。

日本の利用者が今すぐ確認すべきこと

AIサービスの利用が業務に浸透するほど、個人端末の感染が組織のAIアカウント侵害へ直結するリスクは高まる。Oktaが示すように、パスワードを強化してもトークンが盗まれればMFAは迂回される。利用者はブラウザやOSを最新に保ち、不審なゲームやソフトウェアの実行を避けるとともに、管理者はAPIキーを平文で配布・共有していないか、利用上限やIP制限が設定されているか、セッションの再利用を検知する仕組みがあるかを点検することが重要だ。

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