AIセキュリティ / AI SECURITY / THREAT REPORT
AnthropicがAI悪用レポートを公開 — ロシア系諜報組織と中国の学生集団がClaudeで国家級サイバー攻撃を展開
Anthropicは2026年9月、Claudeの悪用をまとめた脅威レポートを公開した。ロシアとのつながりが指摘される諜報組織や中国の大学生を含む集団が、AI主導の攻撃基盤で20〜50組織を標的にしていた。
要点
- Anthropicは2026年9月、脅威インテリジェンスチームが2025年12月から2026年8月に検知・阻止したClaudeの悪用事例をまとめたレポート「Detecting and countering misuse of AI: September 2026」を公開した。サイバー作戦、影響工作、監視、詐欺、生物学的悪用、通常兵器開発、不正な蒸留の7分野を扱っている。
- レポートは、AIが国家支援組織と個人攻撃者の技能格差を解消しつつあると指摘している。ハクティビスト、個々の金銭目的の攻撃者、国家の諜報組織のいずれも、1年前なら多数の熟練要員を要した多標的キャンペーンを維持していた。
- Anthropicは全事例で悪用アカウントを停止し、防御策を強化したうえで、当局や業界パートナーと情報を共有したと説明している。悪用にはClaude Haiku、Sonnet、Opusが使われ、不正蒸留の1件を除きFableやMythos系モデルの悪用は確認されなかった。
ロシア系諜報組織GTG-20006は20超の組織を標的化
AnthropicがGTG-20006と呼ぶ攻撃者は、AI主導のワークフローで攻撃基盤の運用を自動化していた。同社の帰属評価は、公開情報でMidnight Blizzardと結び付けられる組織と整合的だとしている。実行者の1人はロシア語話者で「JackPoterz」のハンドル名を使い、その手口と標的はロシア系の諜報活動と整合的だと報告している。
標的はウクライナと欧州の政府の軍事情報関連部門、外交・防衛組織、米国の外交政策に関わる個人などで、作戦計画・偵察・実攻撃を通じて20超の組織が狙われた。共通の関心はウクライナと軍用ドローンの技術・部品供給網で、攻撃者は少なくとも2社のドローン部品メーカーのメールボックスを大量に外部送信し、軍用ドローンメーカーを標的にしたほか、ドローン画像認識システムのソフトウェア開発キット一式を窃取した。窃取後は数日かけて製品構成、部品表、供給元の依存関係、未発表製品の詳細を解析していた。
攻撃手法の特徴は、検知回避の自動化にある。攻撃者はWindows系インプラント2系統、モバイル攻撃キット、ブラウザーの保存パスワードを狙う窃取ツール、政府組織を模したフィッシング基盤、管理コンソールで構成する独自ツール群を使い、監視用AIエージェントがセキュリティ製品による検知を検出すると、検知されなくなるまでマルウェアを自律的に改変・再構築して使い捨てのホスティングサーバから再展開していた。フィッシングではドメイン調査・登録からホスティング設定、メール送信、C2の成否監視までをAIワークフローが担い、人間はClaude Codeのスキルの調整に回っていた。
間接的な侵入経路として、ホテルのゲストWi-Fiを運営する少なくとも3社の受託業者に侵害して管理者認証情報でDNSレコードを書き換え、宿泊客の通信を攻撃者のサーバへ誘導するDNSハイジャックも確認された。接続した宿泊客にはClickFix型の誘い文句でWindows、Android、iOS向けのマルウェアが配布されていた。ウクライナの20超の政府組織のメールサービスやリモートアクセスが走査の対象になっていた。
中国・長沙の学生を含む集団GTG-10007は約50組織を標的化
AnthropicがGTG-10007と呼ぶ中国語話者の集団は、中国・湖南省長沙市に居住している可能性が高いとされ、実行者のうち2人は湖南省の大学で計算機・通信工学系の課程を学ぶ学部生だった。1人は中国のセキュリティ企業Sangforでのインターン経験があり、別の中国セキュリティ企業QiAnXinの攻撃的サイバー作戦職に応募活動中だった。
この集団はClaudeを攻撃プログラムの設計・指揮層として使い、本番システムへの侵入試行、中東・欧州・東南アジアの外国政府ネットワークの偵察、主要エンドポイントセキュリティ製品への脆弱性研究とエクスプロイト開発、マルウェア開発、情報収集基盤の運用を並行させていた。担当者が離席中も収集と脆弱性研究の機能が動き続ける体制で、標的は教育、小売、エネルギー、技術、医療、金融、製造と各国の政府機関におよぶ約50組織だった。
実害として、教育技術企業1社からクラウドストレージ内の学生個人データ数百メガバイト分が大量に窃取され、小売企業1社の本番システムに侵入して内部へ到達していた。Anthropicはこの事例を、AIが脆弱性研究・検証・エクスプロイト設計の速度を実質的に加速させた例として位置付けている。
ShinyHunters系の日和見型攻撃もAIで拡張
AnthropicがGTG-50014と呼ぶShinyHunters関連の日和見型攻撃者は、特定情報の窃取ではなく、インターネット公開システムの大量走査と未修正の脆弱性の悪用で侵入し、窃取データの販売や恐喝につなげていた。Claudeの活用により、多様な標的環境の理解と適応が容易になり、Nデイ脆弱性の大量悪用、公開コンテナやコードリポジトリからの認証情報探索、脆弱な公開機器の大量悪用が規模と深刻さを増していたと報告している。
Anthropicの評価 — 高度さは帰属の手がかりにならない
Anthropicは今期の傾向として、攻撃の高度さが実行者の特定の手がかりにならなくなったと指摘している。2025年11月に国家支援キャンペーンの自律攻撃モデルを記録して以降、同型の足場がPentAGIのような公開の攻撃エージェント基盤を通じて拡散し、国家機関から単独の個人まで幅広い攻撃者が導入している。攻撃の大半は単なる質疑応答を超え、偵察・悪用・データ窃取を実行するマルチエージェント基盤による直接実行や指揮を伴い、人間は標的設定と窃取結果の確認に回っていた。
日本企業への示唆として、レポートは国家系組織が部品供給網や受託業者を経由して標的に迫る手口を記録している。委託先や子会社を含めたサプライチェーン全体の公開資産管理と認証情報の保護が、AIで加速する攻撃への備えになる。
出典
- Anthropic「Detecting and countering misuse of AI: September 2026」(2026年9月)
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