注目

規制・コンプライアンス / COMPLIANCE / JAPAN

警察庁の有識者検討会が新手法「遠隔解析」の早急な導入を提言 — 犯人の端末から通信内容を把握しトクリュウ被害を防止、裁判官の事前審査など適正担保も

警察庁の有識者検討会は、匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)対策として、犯人が使う端末から秘匿性の高い通信アプリの内容を把握する新手法「遠隔解析」を早急に導入する必要があるとする提言骨子をまとめた。通信の秘密やプライバシーとの衡量を踏まえ、裁判官の事前審査や取得情報の消去義務などの適正担保策も示している。

要点

  • 警察庁の「匿名・流動型犯罪グループによる犯罪被害対策のための技術的措置に関する有識者検討会」は、犯罪グループの端末から秘匿性の高い通信アプリの通信内容などを迅速に把握し、被害防止に活用する新手法「遠隔解析」を早急に導入する必要があるとする提言骨子をまとめた。警察庁は提言骨子の本文と概要を公式サイトで公開している。
  • 提言骨子は、特殊詐欺の被害額が顕著に増加して令和7年中は過去最多となったほか、強盗事件が連続的に発生し国民の生命が奪われる事態に至っているとして、トクリュウによる犯罪被害を「異常事態と呼ぶべき深刻な情勢」と位置付けている。
  • 現行の刑事手続で認められた電磁的記録提供命令と通信傍受では、強固な暗号措置が講じられた通信アプリの内容解明は極めて困難だとして、新たな技術的措置の必要性を訴えている。
  • 一方で、取得する通信内容は憲法上の通信の秘密やプライバシー保護が及ぶものとして、裁判官による事前の審査、対象端末や取得範囲の限定、不要な情報の消去義務といった適正担保策も併せて示している。

背景:現行の捜査手法が届かない暗号化通信

匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)は、実行犯の募集や犯行の指示を、通信内容に高い秘匿性を持つ通信アプリで、非対面・匿名により行うことが一般的だ。実行犯を検挙しても「捨て駒」にすぎず、上位の指示役や次の標的を速やかに特定できない間に新たな実行犯が補充され、犯行が継続する。提言骨子はこうした実態を踏まえ、刑罰規定の予防効果が十分に機能していない状況だと指摘している。

現行制度では、通信事業者に保管情報の提供を命じる電磁的記録提供命令と、通信経路上を流れる内容をリアルタイムで捉える通信傍受の2つの捜査手法が認められている。しかし提言骨子は、端末間で強固な暗号措置が講じられた通信アプリのやり取りには、これらの手法では内容の解明が極めて困難だとしている。

「遠隔解析」とは何か

遠隔解析は、対象となる端末の中で被害防止に必要な情報がどこにどの形式で記録されているか分からない状況において、犯人への事前通知を行わず、権限を行使した時点で端末に記録されている電磁的記録のみを抽出して可視化し、その中から被害防止に必要な情報を選別して取得する手法と定義されている。生成されるデータを継続的に取得するものではなく、保存されたデータを一つの機会に取得する非継続的な措置だとしている。

目的は、被害が切迫する者を特定し、注意喚起や警察の対処態勢の整備を迅速に行って被害を的確に防止することだ。取得が想定されるのは、被害切迫者を特定する情報(氏名や住所が分かる情報、自宅写真など)のほか、犯行の日時、実行役の人数、準備している凶器といった切迫する重大犯罪に関する情報としている。

制度上の位置付けについて、提言骨子は刑事手続上の捜査手法ではなく、犯罪の予防や阻止を目的とする行政手続上の措置とすることに十分な合理性があるとしている。理由として、刑事手続では十分な予防効果が得られないおそれがあることや、予備・未遂を含め犯罪として未成立の段階でも警察が介入すべき場面が多いことを挙げている。権限の根拠規定は、警察官の職権職務の手段を定める警察官職務執行法の中に置くことが考えられるとしている。

要件と適正担保:司法審査・限定・消去義務

提言骨子は、遠隔解析の要件の目安を刑事訴訟法の差押えとしつつ、厳格な限定を求めている。対象の端末は、被害発生のおそれがある重大犯罪の犯人が使用すると合理的に認められるものに限る。具体的には、犯人同士の連絡や犯人から被害者への連絡に用いられた端末であることが合理的に認められるものに限定すべきだとしている。

手続面では、憲法31条と35条の要請を踏まえ、実施理由、対象端末、取得する電磁的記録の範囲について裁判官の事前審査(許可状の発付)を受けるべきだとしている。対象端末は電話番号やIPアドレスなどの方法で特定し、取得範囲も特定することが求められる。

行使の条件としては、重大な犯罪による被害の発生・拡大が差し迫り緊急の執行が必要なこと(緊急性)と、他の方法では速やかな情報収集が困難なこと(補充性)を要件とすべきだとしている。

プライバシー保護の仕組みとして、裁判官が許可した範囲以外の電磁的記録を取り扱った場合は速やかに消去し、他者に提供してはならない旨の規定を置くことや、実施する警察官への組織的統制を求めている。検討会に寄せられた意見では、選別から外れた情報は警察が保有し続けることは許されず確実に消去することや、別犯罪の証拠を見つけても直ちに保全することは許されないことなども示されている。

提言骨子は、こうした実体的・手続的規律とガバナンスを前提にすれば、通信の秘密やプライバシーへの制約はやむを得ない限度にとどまるとしている。一方で、技術の詳細は犯人に対抗措置を取られないよう徹底した情報保全を図る必要があるとも指摘している。

今後の注目点

検討会は9月2日に第3回会合を開き、提言骨子案などを議論した。警察庁の公開資料によると、9月9日には第4回会合も開かれている。提言骨子は、収集した情報で被害切迫者が判明した場合の被害防止措置の規定も併せて整備する必要があるとしており、制度化に向けた法案の動きが今後の焦点になる。

被害防止と通信の秘密・プライバシー保護の両立がどこまで具体的な制度に落とし込まれるか、企業や市民の通信にも関わる論点だけに、続報を確認していきたい。

出典

この記事は、公開情報と編集部の調査・知見をもとに構成しています。内容は公開時点の情報に基づく解説であり、個別の環境への診断・対応を保証するものではありません。重要な判断では、記事内の出典や各提供元の最新情報もご確認ください。